#009 親との文通2−カムアウト続編


 またまた、軽い話を書く前に、重い話…(^^;;)



 #008に掲載した、父親からの手紙へのいずみの返信が実家に届き、また、父親から手紙が来ました。
 前回と同じく、要旨のみまとめてみます。

  • 仕事が忙しい中、案外早く返事が来たので感心した。真剣に対応しようという姿勢がはっきり現れていることを嬉しく思う。
  • 返事の前半については、君(=いずみ)の今回の件についての「主張」ないし「弁明」と言えるような内容で、私もおおむね予想できたものだった。
  • 今回は、返事の後半にある、君の回答あるいは見解について考えてみた。
    1. 体形上の変化から将来生ずる不便さについて
      君が今、想像できる範囲をはるかに越えているものもあるのではないか?例えば、老後、介護される立場になった時のことも、その1つだろう。他にもいろいろあるだろうから、今後とも継続して考えておく必要があろう。
    2. 生殖機能の喪失について
      これについては、私(=父親)もそれほど重大な問題とは考えていない。別に、××家の子孫が残っても残らなくても、大した問題ではないと思っている。
    3. 外科的手術について
      これは、ホルモン投与とはかなり大きな相違があると思うので、もしこれを受けたいと考えた場合は、必ず事前に親と相談することを約束してほしい。
    4. 君自身の意識について
      君は「これまで十数年、自分の考え方は変わっていないから、後悔が起こるはずはない」と思っているようだが、今後の数十年の月日は、それよりも長い、ということを念頭に置き、一途に思い込まない方がよいと思う。
    5. 兄弟やその関係者に与える影響について
      これは、君も言うように、最も慎重さを必要とする項目である。××(=弟)にだけ話すならそれなりの理解も得られようが、×××さん(=弟の奥さん)には話すな、というのもおかしい。しかし、×××さんに話せば、それをご両親に黙っていよ、というのは酷以外の何物でもない。そして、×××さんのご両親は、よい意味で古風な方々だから、それこそ、腰を抜かしてしまうだろう。だから、もし耳に入った場合に大混乱が起こらぬよう、周到に準備をしておかなければならない。具体的には、今後の課題として残るだろう。
    6. (省略)

  • また、母(=いずみの母親)からは以下の伝言をあずかっている。
    男性の姿をしても十分目立つ人間なのだから、目立たぬように心がけるなら、髪型・爪の長さなどもう少し考えろ。(ここは原文のママ)



  •  うーん、これは…ちょっとがっかりです…

     いずみとしては、返事の前半こそが真剣に訴えたかった部分なのに、そこはたったの2行でおしまい…(^^;;)。しかも「おおむね予想できた」って…(^^;;)。
     まぁ、父親としてはまさに「能書きはどうでもよいから、危機管理だけ考えよ」ということなのでしょうか…(^^;;)

     「一途に思い込むな」という部分は、確かに、親の感覚としては、そう思うのもムリはないなぁ、とも思います。(あーなんて好意的な解釈なんだっ!(^^))

     しかし、母親からの伝言、これは何ですかいったい…(^^;;)
     あっ、別に文体がどーのこーの、とゆーわけじゃ、ないです。だって、そーゆーひとだから、いずみの母親って…(^^;;)。

     むっときたのは、「目立つ目立たない」を、誰が決めるのか?ってことなんです。
     だって、実際に「目立つ目立たない」で、直接の利害をこうむるのは、母親ではなくっていずみ本人なんです。で、いずみも、仕事上、ばればれになってしまうのはたいへんまずいので(^^;;)、そのあたりは最も気をつかっているのです。母親に、言われる筋合いは、ないです…(-_-)
     これ、母親にとっては、「世間の眼」=「自分の視点」なんでしょうね…自分から見て目立つものは、世間でも目立っている、とゆー、すっごーく視野の狭い感覚…。
     でも、そうなってるのは、やっぱり、母親が、家庭にしばりつけられてて、社会的なかかわりを持ってないからなんだな、と、同情しちゃったりもするのです(すっごい、えらそーなものいいだぞっ!>いずみ(^^;;))。



     で、すでに、返事を書いて投函しました。
     なお、介護云々については、みなさまから寄せられたメール・でんごんを大参考にしてます(^^;;)。みなさん、ありがとうございました!(^^;;)
    父上へ

     まずはじめに、返答が遅れたことをお詫びします。先週、いろいろと忙しかったもので…。今、日曜(正確には月曜)の深夜1時です。

     さて、今回の父上からの手紙は、どちらかと言えば、疑問の提示というよりは「もう少しじっくりいろいろと考えてみよ」という“お告げ”のような気がしました。
     今回は、提示された事柄についてのみ考えてみます。

    (1) 肉体の変化に伴う社会的不利益

     父上は、老後介護の問題を具体的に指摘されました。
     この問題は、はっきりいってこれから30年以上後の話であり、それこそ、現在とは老人をめぐる社会状況が180度変わっていても不思議ではない、遠い先の話です。ですから、ここでこの問題について考えることはほとんど意味がない、という気も正直いって、あります。ただ、それでは父上は納得されないでしょうから、とりあえず、老人をめぐる社会状況が、現状と大差ないだろう、という仮定の下で考えてみたいと思います。
     まず、肉体改造そのものが、さまざまな介護サービスを受ける上で及ぼす影響ですが、まず公的なものについては、建前上は、問題なし、と考えています。なぜなら、あと数年以内に、日本でも、性転換手術が合法化されるだろう、と言われているからです。合法化された手術を受けた者が制度上で差別されることは、公的機関では許されないことのはずです。
     もちろん、これは建前論です。ですから、本音の部分でも考えてみなければなりません。
     しかし、本音を言えば、キリなどあるはずもありません。なぜなら、普通の老人であったとしても、これは本人の健康状態および医療機関の「あたりはずれ」によっては「ひどい扱い」を受けてしまう、というのが日本の福祉の現状ですよね?
     ですから、私は、この問題についての解決策は、肉体変化のある・なしにかかわらず、いや、すべての非老人にとっても共通に、「老後のためのお金を貯えること」これしかないと思うのです。お金さえあれば、肉体的・精神的な問題の有無による扱いの差異を小さくすることが可能だと考えるからです。もちろん、そんな社会、本当はイヤですが、でもこの社会に生きている以上、そうやって備えるしかない、と、私も思います。

    (2) 外科手術について

     了解しました。性別にかかわる外科手術、すなわち睾丸摘出・陰茎切除・声帯切除・膣形成・豊胸などの手術を考えた場合は、結論を出す前に、必ずご両親に相談することをここに約束します。

    (3) ×××さんおよびその肉親への影響

     はじめの手紙で申し上げたとおり、この問題は、まず弟君に対応を一任するのが最善であると考えます。すべては、それからだと思います。

    (4) 母上からの伝言

     髪型・爪の長さについては、十二分に、いや二十分ぐらい考えているつもりです。
     私は、この事項が「知られてはいけない人に知られた」場合、職を失いかねない、というリスクを負っています。事情を知らないお客さん(笑)と接しているのであり、そのときに、相手にどのような印象を持たれるのかについては、細心の注意をはかってきましたし(特にホルモンをはじめてからは)、今後もより一層そうしていくつもりです。そして、それを大前提に考えた上で、現在の髪型・爪にしているのです。
     もちろん、母上の意見は意見として伺いますが、この件に関しては、あくまでも私個人の判断におまかせください。これは強い要望です。

    (5) (略)

     (略)

     なお、2月下旬は少しひまになりますので、またそちらにおじゃましようかとも考えております。まだ直接の対話の機が熟していない、とお考えでしたら、おじゃましません。次の手紙で、指示をお願いします。
    (signature)  




     と、こんな感じです。
     あー、やっぱり、母親には不満書いちゃうんだなこれが…(^^;;)

     さぁ、次はどうなることやら…(^^;;)

    (97/02/05記)  



    つぎにすすむ

    まえにもどる


    はじめにもどる