「反コンピュータ通信」278号にインタビュー

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コンピュータ合理化研究会会報
「反コンピュータ通信」278号(2002/10/15号)
「あの人に聞くっ!」 (16)
トランスジェンダー 米沢いずみさん

富高頼子

 トランスジェンダーとは「性の越境者」という意味である。「性別は重大なプライバシーだ」と主張し、反住基ネットを闘ったいずみさん、トランスジェンダーと性同一性障害の違いを教えてください。


―いずみさんって戸籍名が「泉美」なのですか。
 昔は違う名前だったのですが、3年前に家裁に申し立てて変更しました。普通、4〜5年間はその名前を通年使用していないと簡単には認められないのですが、私は2年間くらいだったので性同一性障害の診断書と親の同意書、および膨大な上申書を提出して認められたのです。調査官にセクハラ質問をいっぱいされて。
―この前、戸籍の性別変更の申し立てをして却下された人のことが報道されていましたね。
 戸籍の性別変更は、今の日本の司法解釈では無理なのです。すでに最高裁で「性同一性障害の人はそれを理由に性別変更することはできない」という確定判決が出てしまっている。
―絶対無理なの?
 つまり、改名のような受け入れる条文が戸籍法にないんですよ。戸籍法の改正かまたは別に立法するしかないのです。
―その人の命に関わるような重大な理由があっても、認めない?
 認めない。
―そうしたら戸籍制度というのは、誰を守るためにあるのでしょう。
 そうです!まさにそれこそ戸籍制度の持つ根本的な問題なのだと思います。戸籍の持つ本質、つまり「血統管理」ということなのです。しかし戸籍制度のある韓国では、条文上ではできないけれども実際には認めていっている。一切認めていないのは日本だけです。

カテゴリーの違い
 私たちトランスジェンダーと性同一性障害の他に、実はインターセックス(半陰陽)というのがあります。これは染色体あるいは外性器に男女の性質が両方現れる、またはどちらでもない。発生率はこの方が高いんですよ。この場合は手術に保険がききますし、戸籍の変更も認められている。「戸籍の記載の錯誤」に当たるということなのです。
 性別は一時に決まるのではなくてそのメカニズムはドミノ倒しに似ているところがある、と言われています。一箇所のドミノで引っかかると、どこかで典型的でない形質が出てくる。脳のメカニズムに関係しているのではないか、と言われていますが定説はない。後天的なのか先天的なのか、両方なのか、あいまいなのです。ジェンダーを変えたい人、サードジェンダーでいるんだ、という人などをすべてひっくるめて「トランスジェンダー」と呼んでいます。一方、性同一性障害(GID)というのはあくまでも医療用語なのです。トランスジェンダーは社会的な概念であって、この二つはカテゴリーが違います。手術が必要な人もいれば服装だけ女で満足する人もいる。しかしそのどちらでもない人もいるのです。トランスジェンダーとは、いわば戦略的に出てきた言葉なのです。

戸籍制度と闘おうとしない
―あるがままで生きる自分達を認めろ、ということですね。
 そうです。しかし性別2元論(男か女かどちらかであるべきだ)という人たちは、手術が必ずしも必要ではないトランスジェンダーに対して、「お前ら黙っていろ。せっかくここまで積み上げてきた性別変更の成果が崩れてしまう」と攻撃してくる。
―例えば公的な証明に、性別の記載をはずすことを要求してもいいですよね。
 そういう運動も出てきています。海外では抜書きの書類に本人の希望する性別を書くことを認める国があります。日本ではそれをすると戸籍制度の崩壊につながるからできない。結局、どうやっても戸籍制度の本質にいきあたるのです。しかし、トランスジェンダーの人たちの多くは、権利主張をしないし、闘おうとはしない。
―そうなの?自分でアッピールしていかなくちゃ・・・
 いやせっかく今、女として社会生活をおくっている人にとって、アッピールすることは自殺行為なのですよ。それに、これは今の日本の状況がそうなのかもしれませんが、自分の居心地のいい場所があるのならあえて闘う必要はない。例えば自助グループの中で無事に望む性で生活している人の話を聞くと、影響されてしまうのです。あえてカムアウトする必要はないと言われるとそう思ってしまう。私が住基ネットの話をしても関心はいまひとつ。自分達の生活の不自由と闘うことはあっても、戸籍そのものと闘う気はない。むしろ、性別変更が認められたら女として保証してもらえるので、戸籍制度はあった方がいいのです。
―ふーん、そのへんは話し合っても擦り合わないでしょうね。
 擦り合わないですね。つまり男と女は非対照であって、どちらかに属するものだ、という考えが根強くあるのです。だから戸籍で保証してもらいたい、という意見が説得力を持ってしまう。闘う私なんか「極左」と呼ばれている(笑)

インターネットで知る
―ところでいずみさんはとても話が上手ですけど、人前で話すのに慣れている?
 新宿の「ロフトプラスワン」でトークショーをやっています。もう10回くらい。内容はマルチジャンルで、トークだけでなく歌を歌ったり、トランスジェンダーがゲストだと討論したりします。今度、住基ネットと戸籍のイベントをやります。11月30日です。ぜひ、おいでください。
―分かりました、後で情報ください。それからいずみさんの職業は何ですか?
 コンピュータ技術者なのですよ。トランスジェンダーにはけっこう多いんですよ。世界的な傾向みたい。やっぱりお客と直接話す機会が少ないですし、経営者が若いせいかこだわらない。それに、理屈っぽい人が意外に多くて性に合っている。後は、趣味がバイクとアニメという、「おたく共通の趣味」ですね。
―あはは・・・私の友人がまさにそれです。
 でもコンピュータがいかに私たちにとって大きいかというと、昔は新宿(2丁目)に行かないと、自分が何だか分からないままでいたのです。今はそういう情報はみんなインターネットで知るのです。誰にも悩みを打ち明けられなかったけど、たまたま検索したら引っかかった、と。トランスジェンダーの人のHPを参考にしたり、医療機関や自助グループの情報をそこで取る。
―なあるほど、そうか、2丁目って情報基地だったんだ!しかし、こうやって話していると「性別って何なんだ」という気がしてきますね。みんなグラデーションのどこかにいる。
 そうなのです。多くの人は「ほぼ男」「ほぼ女」ですけど、そうじゃない人もいる。そういう性の違いを互いに認め合える社会を目指したいな、と考えています。


 というわけで、久々のインタビューを受けましたが、「インターネットで救われたコンピュータ技術者」がこんなグループの機関紙に登場してよいのでしょうか、というギモンは考えないことにして(笑)、まじめな話、いわゆる「左派的運動圏」に本腰入れてからはじめてのまじめモノインタビューということで、相当口がすべってますな(笑)。
 ま、これが号砲みたいなもんです。がしがしやってきますよ。(笑)


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