覆面算にみる算数と数学


 さて、今回のテーマは、12月3日のにっきに登場した問題です。
 これは、オウムの上祐クンの出身高校(笑)で出題された問題のようですが、実は算数でも数学でも解けて、それぞれポイントが異なってくる、という代物。恰好のネタということで、ここで採り上げたいと思います。



 まず、問題を再掲します。

  A・B・C・Dは数字で、10進法で
   (ABCD+6000)×6=AB6CD
  となる。A・B・C・Dをそれぞれ求めよ。

 高校入試の問題ではありますが、述べられている内容も、そして解法も、一見して小学算数の範囲だと思われます。そして事実、算数でも解くことができるのです。

 まず、数学で解いてみましょう。

 与式を数式で表現すると、
   6(1000A+100B+10C+D+6000)=10000A+1000B+600+10C+D
 整理して、
   35400=4000A+400B−50C−5D
   7080=800A+80B−10C−D=10(80A+8B−C)−D
   D=10(80A+8B−C−708)
 右辺のカッコ内は整数だから、Dは10の倍数でなければならないが、Dは1桁の整数だからD=0
 よって
   7080=800A+80B−10C
   708+C=8(10A+B)
 右辺のカッコ内は整数だから、708+Cは8の倍数でなければならない。Cが1桁の整数であることを考慮すると 708≦(708+C)≦717。この範囲内の8の倍数は 712しかなく、C=4
 このとき、
   10A+B=712÷8=89
 A・Bは1桁の整数だから、明らかにA=8、B=9である。



 …ははは(^^;;)。簡単に解けてしまった(^^;;)。

 実はいずみ、3日に酔っぱらいながら解いた時点では、こんな簡単な解法はまったく思いつかなかったのよ(^^;;)。
 これなら、2分で解ける問題でした(^^;;)。

 じゃぁなんでいずみが15分もかかったのかといえば、それはもちろん、ハナから算数で解くことしか考えてなかったからです(笑)。

 ということで、算数で解いてみます。
 以下、小学生で利用可な次の各法則は自明とします。
  ・一の位が偶数=2の倍数
  ・下2桁が4の倍数=4の倍数
  ・下3桁が8の倍数=8の倍数
  ・各位の数字の和が3の倍数=3の倍数
  ・各位の数字の和が9の倍数=9の倍数

 まず、倍数の性質を基に、条件を整理します。
 左辺は6の倍数なので、右辺の一の位=Dは偶数です。
 ということは、ABCD+6000も偶数であり、左辺は偶数×偶数で4の倍数になります。
 つまり右辺は4の倍数なので、下2桁=CDは4の倍数です。
 ということは ABCD+6000も4の倍数であり、左辺は4の倍数×偶数で8の倍数、つまり右辺の下3桁=6CDは8の倍数…(1)になります。

 今度は3の倍数系統で攻めます。左辺は6の倍数なので、右辺は3の倍数、つまりA+B+6+C+Dは3の倍数であり、A+B+C+Dも3の倍数といえます。
 ということは、ABCD+6000も3の倍数であり、左辺は3の倍数×3の倍数で9の倍数になります。
 つまり、A+B+6+C+Dは9の倍数…(2)ということになります。

 ここから先は、筆算の視覚に頼ることにします(^^;;)。

      ABCD
     ×   6
     EF6CD

 明らかにCD×6の下2桁はCDです。繰り上がりがないから。
 …ということは、CD×5の下2桁は00になるはずだ!
 ということで、CD×5は100の倍数だから、CDは20の倍数です。
 これと(1)より、D=0でなければならず、さらにC=0or4or8…(3)となります。

 ここから後は、Cの候補について全部調べていきましょう。D=0より

       ABC
      ×  6
      EF6C
     +3600
      AB6C

となるので、C=0、4、8を順次埋めていきましょう。

・C=0   AB0
      ×  6
      EF60
     +3600
      AB60

 つまりB×6の一の位は6で、九九から(笑)B=1or6です。
 これと(2)より、A=2or6。しかしそのいずれも、与式と矛盾します。

・C=4   AB4
      ×  6
      EF64
     +3600
      AB64

 4×6=24だから、B×6の一の位は6−2=4で、B=4or9です。
 これと(2)より、A=4or8。
 B=4、A=4だと矛盾ですが、B=9、A=8だと与式にあてはまります

・C=8   AB8
      ×  6
      EF68
     +3600
      AB68

 8×6=48だから、B×6の一の位は6−4=2で、B=2or7です。
 これと(2)より、A=2or6。しかしそのいずれも、与式と矛盾します。

 ということで、解はただ1つ存在し、A=8、B=9、C=4、D=0です。



 この問題は、さすがに、数学の方が算数よりもはるかに平易かつ容易に解くことができます。
 しかし、この問題を「平均的に『できる』子に説明したとき」の理解され易さは、明らかに算数だと思うのです。
 なぜか。それは簡単で、「倍数の問題を文字式で扱うことは、中学数学の実際上の範囲を越えている」からです。

 本当は、中学数学では「整式で倍数問題を扱う」ことは「必修」だったりします。なんと、「はじめての論証の練習」として!
 ひとむかし前の世代の方(含いずみ(苦笑))にとっては、「中学数学の論証=初等幾何」だったわけです。これは日本の数学教育の伝統がそうなっていたからです。
 「日本の数学教育えらいひと」とされている遠山啓なんかはそれにずっと反発して「整数論で論証を学ばせるべき」と主張していました。初等幾何では、どこまで論証を厳密に行えばよいのか?が極めて曖昧だからです。
 現在は結果としてその主張が採り入れられた形になっている、というわけです。

 しかし実務上では、整数だろうが初等幾何だろうが、論証を生徒に理解させるのは非常に大変です。
 そりゃそーです。人間、社会生活上で厳密な論証を求められることはほとんどありません。どころか、日本では、厳密性を求めてはいけない局面すら多々あるわけです。そんな世に育った親の子どもたちが、そんな習慣身につけてるわけないじゃないですか!(笑)。
 リアリティのまったくないところに、マス対象のメソッドなど組み立てようがありません。
 そうすると結局、この部分はてきとーに流しておしまい、よって倍数を等式で扱う習慣自体が身につかない、といった結果になってしまいます。

 ちょっとそれますが、いずみは遠山啓が大キライなのですね。
 結局、遠山理論は「万人に数学を解放する」ことを目標として組み立てられているわけですが、果たしてそんな必要がどこにあるのでしょうか?理系的な専門技術を理論または道具として習得する必要がある人ならともかく、それ以外の人が、数学的な論証を細かく組み立てられる能力を有していたからといって何かの役に立つとは到底思えないのです。
 確かに、高校数学またはそれ以上のレベルでは、「重箱の隅をつつく」ような場合分け能力・漏れを防ぐ能力が鍛えられ、これは実際に世の中のあらゆる実践で役立つでしょう。しかし、万人がそのトレーニングを積めるレベルまで数学を理解できるようになるとは、とても思えないのですね。
 そんなことに力量を注ぐくらいなら、よっぽと社会そのものについて学習させるべきですよ。数学なんかやめちゃってさ。

 さらにもう1つ、「方程式でない等式」を上手に扱うテクニックは高校レベルであるというのもあります。
 多くの中学生にとって、「数学の問題」は「(狭義の)解を求めること」です。そして、未知数を含む等式が出てきたとき、中学生が考えることは「式の変形で解を求めること」です。解を求めるのではなく、式を特定の形に変形しておしまい、みたいな作業は、非常に中途半端に映るようです。

 なお、この作業は高1で「基本」と化すわけですが、「中3と高1で莫大な差違があるわけでもないのに、中学で難・高校で基本なんてアリ?」との疑問が出そうです。しかしこれは矛盾でもなんでもなく、「高校ではそればかりを集中して練習するから理解できる」わけです。中学では、この種の変形はまさに「整数論の論証」でのみ登場するもので、しかもそのテクニックのレベルは、今回の問題で必要とされるものよりもはるかに低いものです。

 以上の2点から、いずみは、この問題は「ふつうの中学生には教えるべきでない」と結論づけます。理解が難しく、かつ実戦で活用しづらいものをわざわざ時間かけるのはムダ、なのです。塾屋では。



 あ、当然ながら、志望校がこの高校ないし同レベルであるような生徒には、むしろ積極的にこのような等式変形をトレーニングすべきです(^^;;)。超難関校では、このレベルの変形は「できてあたりまえ」なのです。特にこの問題を出した高校は、こんな感じで「等式変形をして条件を絞り込んで、倍数や剰余の性質を活用して解を求める」問題がしばしば出題されているので、ここ志望ならなおさらです。
 ただ、この問題をいずみに尋ねてきた塾には、おそらくそんな生徒はいないと思うので(笑)、やはり上記どおり「教えない」のがベストだと思うのですね。



 さて、今度はこの問題を算数として考えてみましょう。
 先の解答例にもあったとおり、この問題は、完全に小学算数の範囲で正解を求められます。
 ただし、実際にはかなり苦しいところが1ヵ所だけあります。それは、「CDが20の倍数である」ことをあっさり求める部分です。
 これ、気づく小学生は絶対にいると思いますが、ただしやはりそれは極少数でしょう。
 もしこれを愚鈍に解くのなら、次のようになります。

 筆算を書いたとき、C×6+(D×6の繰り上がり)の下1桁はCになる。
 ということは、D×6の繰り上がりは、C×6の下1桁とC自身との差になる。
 ここで九九の6の段をまとめると、
  かける数 0  1  2  3  4  5  6  7  8  9
  積    0  6 12 18 24 30 36 42 48 54
  両者の  0  5  0  5  0  5  0  5  0  5
  一の位の差
 Dは偶数だから、D×6の繰り上がりは0・1・2・3・4のいずれかである。
 しかし、C×6の下1桁とCの差は、0か5にしかならない。
 従って、D×6の繰り上がりは0でしかなく、かつDが偶数であることからD=0となる。
 つまりCDは10の倍数かつ4の倍数なので、20の倍数になる。

 …これだけ見ると全然愚鈍じゃないですが(笑)、実はD=0、2、4くらいまで九九の表を書いて考えると、全く同じ推論に達するでしょう。

 実は中学入試では、「約数・倍数の問題」は1つの花形を形成しているのです。
 それは、このジャンルでは、教科書に書かれていることだけを基に、いくらでも難しい応用問題を作ることができるからです。
 当然ながら、塾では、それへの対策をかなり重点的に指導します。その鉄則はとにかく、倍数の性質で条件をできるだけ減らして、あとはしらみつぶし!なのです!。
 そしてこの問題は、まさにそれだけで、ほぼまっすぐに、正解に達することができるのです。

 だからこの問題は、中学入試っぽい、と言えるのですね。
 実際、こーゆーのって、麻布とか武蔵とかが好きそうな問題です(業界関係者は(笑))。「小学生の範囲で解けるが、要領良く条件を整理していかないと絶対に時間内に正解できない」よーなやつ。

 いずみはそう直観したからこそ、ハナから算数で考えてしまったのでした。(←単なる言い訳です(笑))


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