#006 許容


 今回は、いずみが年末に、ちょっぴりブルーになっちゃったおはなしを書きます。
 あっ、もう立ち直ったので、だいじょぶです(←何が「だいじょぶ」なのかっ?(^^;;))
 前半は軽いですが、後半はとーーっても重いので、覚悟して読んでねっ(^^;;)




 いずみは、大学生のころ、麻雀のサークルをやってました。寮の自室を部室にして、卓を置いて、毎日打ってたんですね(^^)。
 もち、サークルなので、賭けません(笑)。
 ルールは「101ルール」とかいう、ちょぉ〜ストイックなルール。親が和がらない限り連荘なしとか、ノーテン罰符なしとか、裏ドラ槓ドラなしとか、そんなのは当然として(^^;;)、もっとキツいのは、終了後の得点のつけ方です。半荘終了時の素点で、1位なら+1ポイント(ホントは「1昇」と言う)、2・3位ならゼロ、4位なら−1ポイント。どんなに大差だろうが僅差だろうが、得点はこれだけです。
 これの積み重ねで、成績をつけていったんです。
 で、いずみは、いちおー、サークル内で成績トップでした(^^;;)。専門誌の誌上対局に出たこともあったりして(^^;;)。でもその時はビリだったけど(笑)
 そして、いずみはもう、麻雀とはひさしくごぶさたしてますけど、1年に1度だけ、打つ機会があります。それは、そのサークルの忘年会です。部員だった方々が熱心で、いつもセッティングして、いずみを呼んでくれているのです。
 今年は、毎年幹事をやってくれているSくん(30歳・なのになぜかT大卒業後、サラリーマンを経て、現在C大医学部3年・この前結婚、という、いずみとは違った意味で「すごい」人生を歩んでます(^^))のセッティングで、23日の14時に新宿で待ち合わせました。
 とーぜん、出席者は、いずみがおんなのこだってこと、知っているはずです。だって、そーゆーかっこで対局することもあったのですから(^^)。でも、この忘年会にはこれまで毎年、おとこのかっこで行ってたので(特に95年は、仕事帰りなので背広だった)、いちおー髪は下ろして、中性なかっこで出かけたんです。

 待ち合わせ場所に出向くと、まだ誰もいません。でも、すぐに1人、1人と現れました。
 しかし…誰も、いずみに気づかない(^^;;) しょうがないので声をかけると、「あぁ、××さんじゃないですか…おひさしぶり…」と、「…」入りで言われました…。うーん、なんでだろ?いずみの、こーゆーふんいきには、みんな慣れてたはずなのに…



 でも、4人集まって(今回は参加者少なし(;_;))雀荘に入ってしまえば、そーゆーのは関係ありません(^^;;)。わいわいがやがや、競技ルールじゃなくって普通のルール(赤・ヤキトリ・ぶっとび・その他なんでもアリだもんねっ(^^))で、楽しく打ちました。
 しかし、学生時代にあれだけやってたものって、もうからだにしみついちゃってるんですね。1年ぶりなのに、理牌しないわ、盲牌できるわ、点数計算は瞬時にできるわ、まったくなんなのだ(^^;;)>いずみ)
 結果は、4半荘やって、2・2・2・3で、±0! われながら、固くまわしてしまったってカンジです(^^;;)。もっとも、最後の半荘はちょっと気がゆるんじゃって、それで3位になっちゃったんですけど(^^;;;;)
 思えば、95年・94年は、全部2位でした…なんか、この会だと、こうなる運気なのかも知れません(^^)。



 さて、めでたく麻雀も終え、次は飲み会です。
 当然、近況報告タイムになります。

 問題は、ここで起こったのです…

 みなさん、近況を語ります。Sくんといずみ以外の2人は、某商社系不動産会社員・某官庁職員(よーするに官僚(笑))をまじめに続けてます。Sくんは、前述のとおりです(^^)。
 そして、いずみの番。話をしようとしたのですが…

 いずみが話しはじめるより先に、Sくんが尋ねてきました。

××さん、なんか、雰囲気が去年までと違いますよ。どうしたんですか?


 いずみ、自分ではそんなに変わったつもりはないんですけど、やっぱり1年ぶりに逢うひとには、そう思われちゃうのかなぁ…。
 思えば、6月に今のマンションに引っ越してきてから、日常生活は、近所の買物も含めて、おんなのこモードがメインになったんです。外出が増えたから、自然と、純オトコ?とはちがった雰囲気が身についちゃったのかもしれません。

 でも別にかまいません。みんな、いずみのこと、学生時代から知ってるんですから(^^)。

 だから、話しても問題ないかな、と思って、いろいろしゃべったんです。ホームページを開いたこと、普段着はおんなのこだってこと、ホルモン注射をはじめて胸もちょこっと出てきたこと、生殖能力が目に見えて減衰しつつあること、その他いろいろと。



 いずみが話し終えた後、場は、妙な沈黙に包まれました。
 決して広くない居酒屋の、店内のざわめきだけが、聞こえます。

 いずみにとっては、予想外の展開。

 だって、学生時代と同じノリで話したつもりだし、もともと気さくな関係なんだし、昔と同じように笑って受け入れてもらえるかと思ったんです。


 しばらくして、Oくんが、口を開きました。

××さん、…ごめん、オレ、そういうの、生理的に受けつけないんだ…




 また、場が、沈黙しました。

 いずみは、一瞬、何とも言えない、泣きたいような気持ちになりました。
 …だって、Oくんは、K寮でいずみの姿、しょっちゅう見てたじゃない!サークルの合宿にいっしょに行ったじゃない!そのときの記念写真を、自分の結婚パーティのときにスライドで見せてたじゃない!パーティが終わったあと、新郎新婦で参加者を見送るとき、「××さん、まだ女のかっこうとかしてるの?」ってにこやかに尋ねてきたじゃない!!…
 それなのに、それなのに…


 でも、せっかくの年に1度の忘年会、こんなことで話がもめてしまっては、悲しすぎます。
 だから、いずみは、せいいっぱいの笑顔をつくって、言いました。

やっぱり、そう思うよね…




 結果として、いずみのそのひとことで場のムードはやわらぎました。
 Sくんは、いずみの近況にあきらかにショックを受けて、半ば放心状態でしたが、この後、ぽつりぽつりと話しはじめてくれました。
 それによれば、Sくんは、いずみが学生時代におんなのこしてたのを、「おんなのこのかっこが好きで、そうしてた」のだ(今の用語なら「TV」になるのかな)と思ってたみたいなのです。だからそれはかっこだけの話で、内面までがそうだ、とは、考えてもみなかったようなのです。
 他の2人も、ほぼ同じ認識のようでした。
 確かに、学生運動やってたころは、言動は随分エキセントリックだったし、トゲも毒も持ってたから(←今はないのかっ!?(^^;;))、すっごく「おとこっぽい」ように見えたのも、無理はありません。そして、そのような言動は、別に「おとこっぽくしようと考えて」わざとしていたというわけでもなかったんですよね…あくまでも、その頃はそれが、自分の「自然体」だったのも、事実なんです。
 だから、みんながショックを受けるのも、無理もありません…

 それから、OくんもSくんも、体を「いじる」ということに、嫌悪感があったみたいです…
 服装だけならなんでもいいけど、いわゆる「さずかりもの」に薬物を入れたりするのは、2人の倫理観の範囲を越えている、ということみたい…。
 いずみは、これについては、実は明確な答を持ってないんです。自分自身の体をいじることには抵抗ないんですけど、ただ、「そんなのはおかしい」と言われたとき、それに対して反論できない、というか…
 この問題では、別に悩んでいるわけじゃないですけど、インターネットでいろんなお話を見聞きして、なんとなく、「いじる」ことに対して、ふつうありそうな特別な意識が消えてた、ということなのかな、なんて思ったりしました…



 ともあれ、その後は、ふつうにいろんなお話をして、ふつうにお開きになりました。
 でも、みんな、ふつうに振る舞おう、振る舞おうとしているのがわかっちゃうくらい、お互いにショックを引きずったまま、だったような気もします…

 いずみにとっての「自然」は、やっぱり、世間一般では「不自然」。
 これが、否定のしようがない、社会の現実。
 厳しい、現実…

 インターネットでいろんな方々に出会って、文通して、実社会でもだんだんパスできるようになってきて、いずみはちょっと思い上がってたのかも知れません。



 でも、よく考えれば、いずみが苦しんでいる間、他の3人も、同じように苦しんでいたはずです。
 目の前の旧友の「現実」を、みんななりに、なんとか消化しようと。

 別れ際の会話。
いずみ:来年も、…呼んでくれる?
Sくん:そりゃ、呼びますよ!
Oくん:どうせなら、徹底してやってね。でも、へんだったら近寄らないよ(笑)

 …やっぱり、ともだちはともだちなんだね(^^)。



 そして今日。Sくんから、年賀状が届いてました。
忘年会は疲れました。
でも、今年もやりましょう。普段着で来て下さい。

 …こんなに、もらってうれしかった年賀状は、はじめてです…

(97/01/01記)  



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