ざつぶん#008 千葉麗子 GAME OVER

※この文は、いずみが「投稿写真」95年9月号に執筆したものです。



☆千葉麗子年表☆

75年
生誕
88年 ミスサンバードコンテスト(優勝:小林彩子) ミス・フォトジェニック
ミスアクアフレッシュコンテスト(優勝:桜井幸子)
90年 ミスメディアクイーン 審査員奨励賞
91年 ティラノスレーシング(F−3000)マスコットガール ←初仕事
CM「花王ハローチェックハブラシ」
福島から上京する
92年 「恐竜戦隊ジュウレンジャー」プリンセスメイ
93年 CM「日清焼そばUFO」
オーロラ5人娘としてCD「クールな恋」デビュー
EYE−NET(パソコン通信)の番組に自ら参加し始める
写真集「First Voyage」
CM「大正アイリス」
ドラマ「ひとつ屋根の下」
CM「ネッスルクランチチョコレート」
写真集「EAST WIND」
ゲーム誌でレビューを書くようになる
94年 ドラマ「南くんの恋人」
深夜番組「殿様のフェロモン」
CD「NON STOP! ONE WAY LOVE」でデビュー
WOWOW「妖蝶キリコ」
Nifty−Serve(パソコン通信)で番組開始
CD「P−パラダイス」
EYE−NETの番組終了
CD「BRAND NEW SPIRITS」
95年 CM「東京デジタルホン」
新規の仕事入れを中止
Nifty−Serveの番組終了
事務所との契約切れにより引退→ゲーム業界へ転身


 「電脳アイドル」千葉麗子、引退!
 自ら「ゲーマー」を名乗り、かねてから 「アイドルより、ゲームソフトをつくってい る方がいい」と公言していたアイドル、千葉 麗子が、7月限りで「芸能界を引退」した。 今後はこの宣言どおり、ソフト会社でゲーム 制作にかかわっていくらしい。
 いつも遠慮のないストレートな発言と飾ら ない性格で、多くのファンをひきつけてきた チバレイ。そんな彼女の足跡をふりかえってみよう。


 千葉麗子、20歳。福島県出身、本名同じ。
 中2のとき、モデル志望だった母親の勧めもあり、いくつかのオーディションを受ける。その中でも有名なのが、桜井幸子が優勝した ミスアクアフレッシュと、小林彩子が優勝したミスサンバード(入賞した)か。
 その後県立高校に入学。女友達につきあって行ってみたゲームセンターでふとプレイしてみたゲームにハマり、学校をサボって通いつめるようになる。その一方、「副賞の海外旅行が欲しくて」ミスメディアクイーンコンテストに出場、審査員奨励賞を受賞する。
 これがきっかけとなり、事務所と契約し、91年、高2の夏に上京。初めての仕事はハブラシのCM(撮りは上京前)だったが、彼女がメジャーになったのは翌92年2月からの「恐竜戦隊ジュウレンジャー」のプリンセスメイ役だ。
 慣れない上京生活と仕事のため拒食症となり、病院で点滴を打ちながらがんばった彼女、これを縁にCMもどんどん入るようになり、売れっ子となったのが93年。5人組のユニット「オーロラ5人娘」に参加、「クールな恋」でCDデビューも果たしている。
 その一方、事務所にあったMac(パソコン)をいじって「高校の授業でやっていたパソコンよりも全然面白い!」と感動、自分でもMacを手に入れ、パソコン通信局EYE−NETにあった自分の番組に、自宅から電話回線を使って自ら直接、それも毎日、アクセス(読み書き)するようになった(チバレイとリアルタイムで同時参加するファンが急増、書き込みが容量をオーバーし、EYE−NET全体が停止してしまうという事態まで招いたこともあった)。
 また、アイドルになる前からの最大の趣味でもあったゲームの関係での仕事も増えてきた。NEO−GIO(ゲーム機)絡みの様々なイベント・CMなどに出演、またゲーム雑誌などでコラム・レビューを書くようになる。
 これらにより、94年を迎える頃には、人気の面では完全に「メジャーアイドル」と呼べるほどになり、いよいよソロでのCDデビューも果たした。
 しかしそのような人気の上昇とは裏腹に、いや、逆に「それにつられて」かも知れないが、本人はますますアイドルよりもゲームの方面への関心を強めていく。「唄がヘタだから」という理由でキャンペーンも行なっていない。そのかわり、この頃から急速に叫ばれ出した「マルチメディア」ブームにうまく乗り、お堅い新聞社のシンポジウムなどに参加する仕事を多くしはじめた。そしてその際の肩書きは決まって「ゲーマーでアイドル」というもの。チバレイにとっては「ゲーマーであること」は「アイドルであること」より重要なのだ、ということが改めて示された。
 そしてその極めつけが、とあるパソコンプログラミングコンテストで審査員をつとめたときのこと。審査の感想を求められた時、突然泣き出し「みんながうらやましい。私は今芸能の仕事をしていてとても損をしている。いつかは私もみんなと一緒にゲームの仕事をしたい」と訴えたという。
 パソ通の方も「自分をアイドルとしてではなく、ゲーマーとして、一人の仲間として見て欲しい」とばかり、コアなアイドルファンが多いEYEに代え、会員数も圧倒的に多いNiftyに自分の番組を開設。一応、アイドル関係のコーナー内に開かれたものであったが、ゲームのファンも多数参加し、それなりに賑わっていたようだ。
 そして本年7月。事務所との契約が切れるのを期に、芸能活動からは撤退、とあるソフト会社でゲーム製作にかかわっていくようだ。もちろんこれからも、ゲーム関係のメディアやシンポジウムなどには登場するハズで、結局「引退」とは言っても、単に「いわゆるアイドル的な活動はもうやりません」ということだろう。だから、チバレイの姿自体は、これからもまだ拝むことができるだろうが…。


 この「引退」の直接の原因は、一部マスコミでは「3月にファンから暴行を受けそうになったから」と報じられている。この事件自体は「出待ち写真を一部のファンにだけ撮らせて立ち去ろうとしたところ、撮れなかったファンが過剰な抗議を行なった」という、言ってしまえば「アイドルとごく一部のファンの間でしばしば起こりがちの事件」に過ぎず(とは言ってももちろんよくないことだが)、通常は事務所サイドがきっちり対処してコトが済むことが多いのだが、何せマネージャはあまり「芸能界のマネージャ」然とした人ではなく(大雪の中、空港に向かってしまい、移動できず深夜の生放送を飛ばしてしまったなどの武勇伝多数(笑))そのような対応はできなかったりする。もちろん、チバレイ本人はそういうファンを人一倍嫌がる。そんなわけで「これが引退の真相だ」と語られているのだろうが、「引退」自体は前段で考えてきた通りの「予定の行動」であり、この事件はあくまで「きっかけ」にすぎないだろう。
 先に触れた、プログラムコンテストでの一件でもわかるように、彼女のゲームに対する思い入れはハンパではない。そして「私のライバルは高城剛さん(マルチメディアクリエーター)」というかねてからの発言でもわかるように、「制作サイドに参加したい」という願望も強い。その一方で、「アイドル」に対しては非常に悪いイメージを持っている。「ただ笑っているだけならバカでもできる」「アイドルなんて、女の子があこがれるようなものでもないな、って感じ」など、言いたい放題である。実際の仕事でも、ゲーム関係かなり熱心にやっているのにもかかわらず、CDなどはかなり投げやりなつくりである(このあたりは、本誌でも林明美氏が見事に喝破している)。
 しかし、そこで出てくる疑問がある。「なぜ今になってから引退したのか?」ということだ。もちろん、事務所との契約期間・先の事件などもあるだろうが、実はここに、チバレイのしたたかな姿が現われているのだ。自分では「アイドル嫌い」と言いながら、「とりあえずカオを売る手段として有効だから、とことん活用しちゃえ!」という計算が。
 それはパソ通でも伺うことができた。「私を1人の仲間として見てほしい」と言っていたが、そもそも「番組の主役」が「他の一般の参加者」と対等たりうるハズもない。現にチバレイの何気ない発言に、とある参加者から異論が唱えられたことから発生した大ゲンカで、相手が冷静に対応しているにもかかわらず、チバレイは最終的に「うざい」「やだ〜、私この人嫌い〜」などと公然と書きなぐり、議論を一方的に打ち切ったという。当然ながら、このようなことをやって許されるのは、彼女がその番組の持ち主であるからで、なぜ彼女が番組を持てたかと言えば、それは彼女がアイドルだったからなのである。これも結局は「アイドルである」ことを十分自覚し、それを「自分のやりたいことをやる」ための武器にしているということなのだ。
 ともあれ、93年に世に認められ、94年に大ブレイクしたところで「私はアイドルはイヤです」と公言し、さらにそれを契約切れとともに実行。どこにも大きなトラブルを起こさずに野望達成、というところか。そして恐らく、彼女がかかわったゲームは、それ自体が「売り」となり、内容にかかわらず売れることだろう。実にしたたかである。
 彼女の好きなキーワードは「デジタル」。何しろ、オウム真理教を論評するときにまで「あれはアナログで、デジタルじゃないからダメだ」などと使っていた。その意味は、この用例からも推測できるように、実は彼女自身にもうまく説明できないようでもある(笑)が、要は、「やる・やらない」「やめる・やめない」をハッキリと選択していく、というところか。その意味では、今回の「引退」=ゲームに専念という選択も、「ハッキリとした決断で人生の分岐点を渡っていく」という「デジタルな思考」なのだろう。


 利用しつくしたアイドル界から、「もう未練は何もない」とばかりあっさり引退していく「デジタル」な千葉麗子。そんな、これまでのアイドルとは全く異なる姿勢が、多くのファンと一部の強い反発を生んできた。
 今後、アイドルファンは完全に切り捨てられ、ゲームファンだけが相手にされるようになる。まぁそれもいい。僕らも「デジタル」に、チバレイについていく・いかないを決めればよいのだから…



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