では「面積図」は万能か?−これだけある、面積図の欠陥。

[面積図]

 
問題文
 
 
 
 
 →

 
問題文を読み、「これは速さの問題」と気づく
速さの公式から、面積図を描く
抽→
象→
化→
 →
面積図
 
 

 
図のカタチをよく見て、長さの求め方を考える
長さ・面積を計算する
解(長さ)
 
 
 

 
単位をもとの問題のものに戻す
 

 
 

[問]1000mの道のりを、途中まで毎分200mで走り、途中から毎分250mで走ったところ、4分30秒かかった。速さを変えたのは、スタート地点から何m先か。

[解]速さの基本公式 速さ×時間=きょり から、
    速さ→たての長さ
    時間→よこの長さ
    きょり→長方形の面積

 とおくことができる。
 これにより問題の条件は右上図のように図示される。
 この問題の解は長方形Aの面積に等しい。
 そこで、右図2のような補助線を引くと、
 全体の長方形の面積は

    250×4.5=1125m

 になるから、長方形Cのよこの長さは

    (1125−1000)÷(250−200)=2.5

 これはAの横の長さに等しい。だからAの面積は

    200×2.5=500m




 3つめに、ここ10年間のトレンドである「面積図解法」はどうでしょうか。

 実は、この解法は、算数と数学のおいしいところをつまみ食いした、それなりに説得力がある解法です。

 面積図では、3量関係はすべて、長方形のたて・よこ・面積に置き換えられます。これは方程式と同様の抽象化には違いありませんが、方程式の違いは、「面積図を図形問題として解いている最中でも、単位が保存されている」点にあります。それはそうです。方程式は、どのような関係も、平等に等式で表します(まさに究極の抽象化!これが数学の醍醐味とも言えます)。しかし面積図では、かけ算公式中の「積」の量は面積で、「かけられる数」・「かける数」の量はたて・よこの長さで表されます。つまり、数学ではすべて同じ「数」(すう)という概念で表わされるはずの量に、面積図は、算数的な「差別」を持ち込んでいるのです。これによって、面積図は、算数の世界にありながら、数学的な抽象化の要素も持ち合わせている、うまい方法であると言えます。この10年間でほぼ標準的な解法の地位にのしあがったのも、うなずけるところです。

 では、面積図は、万能の解法なのでしょうか?

 残念ながら、私どもの研究・経験によれば、それは「否」です
 その理由は4つあります。

 まず第1に、この方法は、図形問題が苦手な諸君には、極めて覚えにくい解法であることです。
 面積図は、旧来の「纂術」に見られたような、多数の「××算」のようなパターン分類が存在しないように見えます。しかし、実はそうではないのです。旧来の「××算」の解き方の分だけ、面積図独特の図形操作を覚えなければならないのです。これは、図形センスのあるお子さんには楽勝かも知れませんが、そうでないお子さんには地獄以外の何者でもありません。

 第2に、数量の単位を「長さ」と「面積」に分けて保存する必然性、リアリティが、お子さんに希薄だ、という点です。特に、割合の問題でこれはよく聞かれます。
 割合の公式は、もとになる量×割合=比べられる量、です。これを面積図に置き換えると、「もとになる量」がたての長さ、「比べられる量」が面積、になります。しかし、割合の公式を見ればすぐわかるように、実は「もとになる量」と「比べられる量」の単位はまったく同じであるはずです!これがうまく飲み込めず、割合が絡んだ問題で面積図が書けなくなるお子さんは少なくありません。

 第3に、「連続と離散」という問題があります。そもそも、図形の長さや面積は連続量、つまり「答が分数や小数になってもよい」量です。そして、例に挙げた問題は連続量を扱っているものなので問題は起こらないのですが、最も古典的なつるかめ算、例えば「つるとかめ、脚の数は20本、頭の数は6つ、かめは何ひき?」という問題で登場する数量=頭の数や脚の数は、離散量、つまり「整数にしかならない量」なのです。ですから、「頭の数も足の数も整数なのに、なんでそれを長さでおきかえるの?1つを1cmにして、たての長さが2.5cmになっちゃったらどうなるの?」という疑問が、よくお子さんから噴出します。
 大人から見れば「何でそんなことに疑問を持つの?」と逆に尋ねたくもなるところですが、これが多くのお子さん方の素朴な疑問なのです。

 そして最後に、これはある意味で最大の問題なのですが、この解法は、中学校以降でまったく役に立たないものだ、ということなのです。理由は申し上げるまでもなく、「数学では方程式を用いるから」です。方程式自体が抽象化作業によって組み立てられるものなのですから、それ以外のあらゆる抽象化作業とは、相いれません。

 中学受験は、最終目標ではないはずです。あくまでも、その後へのステップに過ぎないはずです。その中学受験で、ある意味「使い捨ての、ムダな解法を覚える」。これこそ、まさに受験勉強における「非効率」の象徴であるような気がしてなりません。



 今やどの学習塾でも、最低限「つるかめ算」の指導には使っている、面積図。1つの解法が、その功罪をよく議論されないままに、短期間でここまで浸透してしまっている例は他にありません。

 具体的な例をあげましょう。いずみが勤務してた塾には,他の塾でついていけなくなってやってきた、というお子さんが少なからずいました。そして、その子たちは、決まって、「典型的なつるかめ算は面積図で難なく解くが、ちょっとひねってあるととったんに悩んでしまう」のです。

 ひねった問題に応用が利かない以上、実はこれ、はっきり言って「何の役にも立たない」解法なのですが、これは教え方の問題も多分にある気はします。つまり、面積図が持つ強力な抽象性を、教える側が理解し切れていないのではないか、と…

 実は、先の方程式のところでもとりあげたような「面積図でないと解けない問題」の他にも、「面積図の持つ難しさを全部考慮してもなお、面積図よりすっきりした解法が存在しない」問題はあります。平均が絡む問題です。いずみは、平均絡みの問題についても「新解法をあみ出そう」と努力して、一応、あみ出すことはできました。でも、これ、どー考えても、面積図よりわかりやすいとは言えない…(^^;;)。

 正直、小学算数に登場する「単位あたりの量」の中で最も鬼門だと言えるのが、平均なのです。
 平均では、オキテ破りが堂々と登場します。離散量であるはずのデータでも、平均にしてしまうとあっけなく連続量になってしまいます。例えば、60点・70点・70点という3つの点数の平均、これは無限小数になります。点数という、本来整数値しかとり得ないものを、たった3つ平均化するだけで、データが無限小数になる…。
 このような問題では、とーぜんながら、はじめから連続量も離散量もないわけで、だからこそその両者を止揚(笑)した面積図が有効なのです。



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